+ 桐野夏生 色々 | around the secret

+ 桐野夏生 色々

 最近、桐野夏生を読みあさっている。

 随分前【柔らかな頬】を読んだ時は、他の作品まで読もうとは思わなかったのだけど。


 その後【RealWorld】を読み、凄いなと思った。

 話自体は、登場人物達のブレーキのなさが異世界の人のようで「そりゃぁその生き方では、早死にするわ」などと醒めた目で見てしまった所もあるものの。

 主人公のホリニンナという少女が母親に対して持っている感情は、この本の中で私にとって一番のリアルだった。引け目や、理解、尊敬。最も近しい存在ではあるものの、絶対に理解し合えない部分。多分それは作者的には「ここを読んで!」と思った場所ではないのは分かっている。だけど私には「そうそう!それ!!!」という感じだった。


 その後の【グロテスク】。帯の文句から、佐藤和恵の事を、「ああ、この女は、私だ」と思った。

「勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。
一番になりたい。尊敬されたい。
誰からも一目置かれる存在になりたい。
凄い社員だ、佐藤さんを入れてよかった、と言われたい。

誰か声をかけて。あたしを誘ってください。お願いだから、
あたしに優しい言葉をかけてください。
綺麗だって言って、可愛いって言って。
お茶でも飲まないかって囁いて。
今度、二人きりで会いませんかって誘って。」

  (帯より)


 誤解なきように。私はそう思うほど負け続けてきたわけでもない、誰からも誘われないわけでも、声をかけられないわけでもない。


 いくら勝っても(勿論負けたりもするわけだが)不安なのだ。いくら褒められても、求められても、飢えるのだ。

 もっと上へ、もっと上へと駆り立てられて育った世代だからなのだろうか。常に褒められていないと不安なのだ。


 水商売ではないが、常に副業を持ち続けた私。褒められたい、求められたいが行動原理。

 もし私に危機管理能力が欠如していたら、私は進んで風俗に走ったのではないかと思う。それは堅い、理性の日常の対極に見え、成長過程での「建前」の対極。良い子である自分が持っていないものと世間に思われているもの。何者かへの腹いせで。


 ところで、何もされていないのに、腹いせをしたいと思う所が問題なんだ。


 

 この辺りから複数視点での面白い表現をする人だなぁと意識して読むようになる。

 真実は「一人の目から見た物語」では有り得ないのだ。その辺りがまたリアルだなと思う。


 【ファイヤーボールブルース】 では、特に続編が、大筋で何も解決していない所が凄いなぁと思った。いくつもの事件で話を膨らませるだけ膨らませておいて、「でも言いたいのはソレじゃないのよ」とばかりに放置する。

 謎の新入団員は?ストーカーの犯人は?美人プロレスラーの自作自演疑惑は?事務所の派閥争いは?

 続編では、自分が置いてきた人と置いてきた世界の事を思い出しながら、またもや「この女は私だ」と思う。


 【冒険の国】 も、似た感じがした。これから何かが起きる予感はするが、物語の中では殆どの事に結論が出ていない。寧ろ出来事としては拗れただけだ。いや、「拗れる」という結果が出た。



 この本は読んだ直後なので、ひとつ「あれ?」と思った事を。

「あなたの幸せは他の人の不幸」

 言い方は嫌らしいが、真理だと思ってたので、わざわざ「嫌な言い方」という風に取り上げていたのが違和感だった。その逆・・・「人の不幸は私の幸せ」は思わないのだけど、「人の幸せは自分のストレス」くらいである事は、結構多い。羨ましいのが精神衛生上悪いとか、そんな話でもなくて。


 集団で過ごす時、一人の取り分というのは大まかに決まっているのに、幸せな人間は盲目で勢いがついていて膨張しているから、他人の領分を侵して、大きく取る傾向があると思うのだ。一人バカップル状態とでも言おうか。


 例えば楽しいあまり大声ではしゃぎ、他人の静かな生活を侵す。

 例えば幸せボケをして無神経な発言を連発する。

 世の中で一番無害で尊いのは「不幸な善人」なのではないかと思う時があり、実は私は幸せ絶頂な人があまり好きではないのだ。


 エハラーなんかに言わせれば「暗い人は暗い人を呼びますからね」なのだろうな。

 うーーん暗い人上等(笑)