+ 厭な小説【京極夏彦】 | around the secret

+ 厭な小説【京極夏彦】

 京極作品、流石の安心感。


 嫌じゃなくて厭という字を使うあたりも、蜻蛉(蜉蝣)をKAGEROUと記したアノ人とは違い、必然で。


 言葉の一つ一つをしっかり受け止めても、決して肩すかしを食らわない気持ちの良さ。


 全編「厭な小説」。「嫌」ではなく「厭」としかいいようがないシチュエーションを一話一話丁寧に取りそろえ(笑) 
 ハヤシライスの話がもう怖くてね。この彼女は何なんだろう、精神病者なのか、化け物なのか。京極だから後者だろうな。この話に限らず、話の7割くらいはリアリティがある。だから浮いた部分が怖い。ハヤシライスの彼女も大筋では居そうだしね。


 最後の「厭な小説」。
 大嫌いな上司と新幹線で2人きり。その時間が無限ループするよりも(だって何万年何億年もループしない保証もない)、「何よりも厭な事が、この先お前に起こる」って・・・・・・・何なんだろう。少し離して同じ文章があるし、やっぱりループなのかな。


 全ての話は最終章の主人公の周囲で殆ど漏れなく起きているというのに、これまた全ての話に出て来る嫌われ者の「クズ上司」だけは、怪奇現象からも仲間外れにされているかのように暢気な厭っぷりで、何だか可笑しい。

 頭の大きな、山羊のような目の気持ち悪い子供が出て来たり、仏壇を開けるとご先祖が「みつしりと」入っていたり、想像を絶する地獄のような厭さの中、この上司だけが動かぬ日常だ。


 意外とラスボスはこの上司かもよ(笑)