+ 死ねばいいのに【京極夏彦】
「身許っても、別にないンすよ身許。肩書きねえつうか。俺、仕事してねーし。してねえっつうか、出来ねえつうか。コンビニとかでバイトしてもクビになるっつーか」
「俺、学歴もねーし無職だし、あんまり常識とかもねーすけど、一応、ヘタレなんもんで、怒られるの嫌いっすから、礼儀っつーか、お断りだけはするっすよ。」
常識の無さは、盲点の再問いかけへ。
無責任さは、何も守らなくて良い者特有の公正さに。
この口調で各種ティピカルな現代人の憑物を落としてゆくサマに、私脳内で完璧なヒーローになっていた主人公。だけど最後の話を読んだ後ではなんだか普通の男の子に見えた。
彼は寧ろ「アサミの死」という知恵の実をモロに喰らった未開の人だったのではと。
意図して憑物を落としていたわけではなく、飲み込んだ知恵の実の力を持て余して足掻いていただけ。憑物を落としていたのは彼からはみ出たアサミの死の余波に思える。
巻取式のメジャーを巻き取るようにくるくるっと収束する最後の1ページが気持ちよかった。面白かった。
毎回の落とされ役が、踊らされすぎ感・喋りすぎ感があるのが唯一残念な所。