+ 有頂天家族【森見登美彦】 | around the secret

+ 有頂天家族【森見登美彦】

 ・・・・・・面白かった。1ページ1ページ、大事に大事に読んだ。


 京の都に生息する、狸と天狗と人間の話。

 天狗は人間を拐かし、人間は狸を鍋にして、狸は天狗を罠にかける。


 偉大な先代の血を受け継いだ(継ぎ損ねた)タヌキ4兄弟。
 長男矢一郎は偉大なる父から責任感だけを受け継ぎ、ここぞという時には生来の気の小ささを大きすぎる責任感に潰されパニックを起こし、暢気な性格だけを受け継いだ次男矢二郎は、カエルに化けたままウッカリ元の狸の姿に戻れなくなり井戸の中で過ごしてもう数年。
 純真さだけを受け継いだ末弟矢四郎は良い子だけど化けの下手さでは天下一品、特技は携帯電話の充電。「面白きことは良きことなり!」の父の精神を受け継いだ三男矢三郎は、解決より勝ち負けより面白さを追求してしまう為、キレ者の筈なのにイマイチ切れない。

 そしてその「残念な感じの4兄弟」の能力を信じて疑わない肝っ玉母ちゃんは、宝塚ファンのあまり男役に化けて京都の町を闊歩する自称「黒服の王子」。


 もうね、ホント、どうしようもない家族だなぁ。楽しそうだなぁ。


 空飛ぶ茶室で大文字焼きを空から宴会をしながら見たり、扇子で風や雷を操ったり、絶世の美男美女や山や木に化けたり、人間なんか屁でもないような力を持っているのに
 「立派な狸だから、悠々笑って、ミゴト美味しい鍋になってみせる」
ことを潔しとしている狸たち。この辺の感覚って凄いと思う。


 食べる事、自分が自分の大切な人が殺されて食べられる事、死ぬ事、じゃぁ何のために生きるのか、基本的な大事な事の多くが書かれてあったように思う。


 こんな風に、風流に、飄々と生きていけたらいいなぁと狸家族を見ていて、じんわりと暖まった。


 ・・・・・・・最後の方まで海星をヒトデと読み(最初にカイセイとのルビあり)、海星=弁天のオチがあると信じてたわ。