+ 東電OL症候群【佐野 眞一】 | around the secret

+ 東電OL症候群【佐野 眞一】

 最初の半ページを読んで「あれ?」と思った。

 その後も「あれ?」は続いた。山田悠介を読んだ時の感覚に近い。宮部みゆきをを読んだ時、その感覚の10倍希釈を感じるアレだ。

 どうして初っぱなから、この事件と911事件をコッテリと絡めた私説が続くのか。世界貿易センター関連の単語が何度も繰り返されるのか。
「淫靡なネオンサインがきらめくこの町は、戦後のダム建設によって水没した飛騨地方の村の住人たちが東京に移住してつくりあげたものだった。
彼女はダム=電力=東電、ダム=水没=円山町という、現代史の光と影をはらんだ二つの連想の交差点にたたずみ、この謎が解けるものならといてごらん、とでもいうように私を手招きしているかのようだった(P9」
 これらはかなり飛躍した作者の見立てであって、ノンフィクションとしては本全体の信憑性や作家の姿勢を疑われてしまうレベルではないか。
 思い入れの余り「私にとっては実の妹のようなもの」という記述もあり、なんというか距離感がおかしい。
 それに文章や表現が無駄にセクシャルであるのも鬱陶しかった。
 売春婦が性交の後に殺された事件だ・・・・・・セクシャルになるのは仕方ないのだろうが、事実のエロと筆者のエロフィルターの差は読んでいるものにはハッキリと分かる。

 そして「(裁判中に)耳が勃起した(耳を疑った とか耳をそばだてたの意味だろう)P29」で、「ああ、読まなくていいな。この本」と勝手ながら思ってしまった。「今の私にとっては・・・・・・」かも知れないが。
 何だか出がらしのお茶を飲んでいる気分で、もう良い成分はないのに無理に熱湯で量を増して出そうとしてる。調べてみたらこの前に「東電OL殺人事件」というものが一作あり、そちらの評価が高いとのこと。 

 「東電OLシンドローム」なのは、誰よりも作者なんだろうな。