+ 福田君を殺して何になる【増田美智子】 | around the secret

+ 福田君を殺して何になる【増田美智子】


 当時、朝食時に見るニュースや電車の釣り広告での"福田君"に対する情報はとても少なく、蒸留されていて

「チョーシこいた性犯罪者が、裁判向けに反省したフリをしつつ裏では被害者を罵倒する手紙を塀の中仲間に送ったり、いざ死刑が確定したら今度は"ドラえもんが助けてくれると思った"などの荒唐無稽な話を始めた。どうせ気違いのフリをして罪を問わせないための弁護士の策略なのだろう。それにしてももう少し遺族感情を考えられないのか?マトモな嘘はつけないのか?」

 という風に受け止めていた。犯人に対して「死ね!今すぐ死ね!」くらいの気持ちしかなかった。


 が、この本を読んで、何か少し分かったような気がする。


 本は、27歳当時の"福田君"から筆者に宛てられた自己紹介の手紙から始まる。

 女子中学生のような小さい小さい丸文字。
 人を2人殺して死姦して死刑を求刑されている立場とは思えない場違いな内容。しかも初対面で。

 「外でデートとかしたかったね(ハート)」「ぼくも美智子さん(みっちゃんのルビ)のこと知りたいな」


 この後の友人に宛てた(テレビでコメントをした被害者夫に対して)

「ま、しゃーないですね今更。 ありゃー調子付いてると僕もね、思うとりました。」「もう勝った。終始笑うは悪なのが今の世だ。私は環境のせいにして逃げるのだよ、アケチ君」などの手紙。


 活字にすると性格破綻した狡猾な悪人像が出来上がるのだが、直筆のものを見るとまるで出来の悪い小中学生が書いたかのようなバランスの悪さで。


 "この人は自分の言葉を持てる程、発達していなかったのだな。
 状況判断も出来ず、漫画やテレビで覚えた格好いいような言葉を、深く考えずに適当に口にしてるんだ・・・"

 と感じるのだ。



 文中何度も繰り返される「福田君の幼さ」という表現。
 「すべてがちょっとずつずれている」という同級生の証言や、"手記を書け"という弁護士からの助言に対して「ファンタジー形式で書こうと思ってるんだ」とオズオズと言い出すなど数々の空気が読めないエピソードから、恐らく知能的にも発達的にもハッキリと問題があったのだろう。


 そして環境的にも。
 恐らく母親も似た問題を抱えていて、首を吊って自殺した。処理前の遺体を見た福田君は状況的に父親が殺したのではないかと疑いながら育って来た。
 父親は日常的に母親と子供に暴力を振るう人であった。だが福田君いはく、暴力を振るうのは父親だが、問題があったのは母親の方だそうだ。ここでも一概に「父親DV!」と責める事は出来ず、例えば離婚が一般的でなかった時代に見合いで結婚した良さ気な相手が結婚生活をはじめてみると実はトロかったり足りなかったり色々おかしく、それを配偶者としてベッタリ毎日毎日一生付き合わなければいけない・・・・・・となると暴力を振るってしまう気持ちも私には分かる。


 非虐待児が成人後、社会に対して適応障害を引き起こしてしまうのはよくあることだ。家庭内で虐待を避けるために身につけてきた対人スキルと、社会が求める対人スキルはまったく異なるからだ。P30


 

 読後も「福田君を殺して何になる」とは思わない。遺族感情や、目には目を的な償いは物凄く重要だと思う。

 でも今は第三者の立場から福田君を責める気持ちは起こらない。「神様が、世界が悪かったね」としか。
 そういう風に産まれついてしまって、そういう環境で育ってしまって、本人に気付く能力もなく気付く機会がなかった場合・・・・・・・どこまでが本人の罪なのだろう?

 被害者にも涙を呑んで「運が悪かったね」としか言えない。人間も動物で色んなのが居る。この件は天災に似ていると思う。


 もし身内が福田君に殺されていたなら、死刑を願うだろう。同じ事をして返してもまだ足りないと思うだろう。それも正しい。
 でも、無関係な人間としては、「被告の善悪については分からないが、実際、加害・被害の関係はあったのだから被害者親族の気が済むように捌かれるといい」としか言えない。



 犯罪者や他人に危害・迷惑をかける全ての人を同等に憎いんでいた頃を経て、最近ではある種の加害者に"仕方ない面もあったのでは"と思いつつある。


 もしかしたらエイリアンの仕業にしか思えないような犯罪も、知ってみたら納得出来る面もあるのだろうか?それは人として上等なのか下等なのか。



 Amazonで評価が悪かった本だが、私的には弁護団に面会を阻まれて挫折するあたりのグダグダ感を含めて、かなり良い本に感じた。