+ 弱者が強者を駆逐する時代 【曽野綾子】 | around the secret

+ 弱者が強者を駆逐する時代 【曽野綾子】

 日本国内の貧しさをアフリカの貧しい地域の人達と比べられても困るし、現代のワーキングプアを戦後のそれと比べられても質が違いすぎて困る。
 世界を股にかけた活動や知識量に「凄いなぁインテリだなぁ立派だなぁ」と思う反面、時々感じるこの感覚は、「お年寄りの書いたものを読んでいる時」特有のものじゃないかなぁ。


 書かれてあるダメな若い人像は若い者の全てではなく、もっと言えば私の周囲では見た事がない特殊な人達だ。多分、こういう人達は作者の時代にも余裕で居ただろう。


 賞味期限偽装に謝罪を要求したことに対して、その有様がヒステリックだとか「賞味期限は野生の勘で分かる筈。かつてはそうだった」というのは論点がズレまくりで「そーゆー話でも時代でもないのだ」。言いたい事は分かるが、実際に被害者が出たこの事件に結びつけて言うのは違うと思う。大体あの時雪印の社長が叩かれたのは、単に態度が悪くて不適切な発言があったからなのに。


 いいなと感じた言葉。


 小説家というのは、小なる説を書くことを職業としている、だから大なる説を唱えない。


 整頓と清掃を行うことは、複数の人間が強力して行うすべての研究、生産、安全の基本を支えている技術上大切な精神なのである。P78


 お金がない人間がかろうじて気持ちよく生きる方法は、庭と家の掃除をすることだったというP82


 「拭き細りした戸」という表現を小説から私が知ったのもその頃であろう。たいていの家の玄関は、当時は手作りの格子戸だったが、その格子を毎日毎日丁寧に吹いていると、格子の木材は木目が浮き出るほどに痩せてしまう。しかしそこにやや癇性できれい好きの家庭の空気が浮き上がるというのである。P83


 時代を経て変るものと変らないもの。
 全てが変るわけでもないし、変らないわけでもないから。
 変らないものに対しては、お年寄りの経験や知恵は最強だ。


 ああ、そうか。

 私が良いと感じた部分と、違うだろと感じた部分。

 例えば掃除云々の言葉が精神論ではなく「だから家庭の主婦は格子の木目が見えるほど拭き掃除をすべき」という話なら、私は聞くに堪えなかっただろう。

 違うだろと感じた部分は、そんな書き方になっているからなのだろうな。お年寄りにとっては「若い者」の話は遠い精神論で語れても、若者にとっては身近すぎて具体的に聞こえすぎるんだ。